2025年マレーシア新電気料金制度:在宅ワーカーや高齢者が直面する「見えない増税」の正体
家庭の電気代はどう変わるのか?
2025年7月1日、マレーシア半島の電力供給を担うテナガ・ナショナル(TNB)は、家庭向け電気料金体系の再編を予定しています。本制度の目的としては、「透明性の向上」や「エネルギー効率の促進」が掲げられています。
一方で、制度の数値構造を詳しく見ると、生活スタイルによって影響の度合いが大きく異なる可能性があることも分かります。日本の読者にとっても電気料金は家計に直結するテーマですが、今回の制度は単なる単価改定にとどまらず、時間帯や消費量に応じて負担構造が変わる仕組みとなっています。
本記事では、新制度の構造を整理し、どのような世帯にどのような影響が想定されるのかを、データに基づいて検討します。
複雑な5段階から「電圧ベース」の2段階へ — 構造の劇的な簡素化
今回の改定では、料金体系が従来の用途別構造から「電圧ベース」へ移行します。これにより、従来5段階だった料金ブロックは、2つの主要区分へと整理されます。
専門的な視点で見れば、この簡素化の鍵は、各請求項目の役割が明確化された点にあります。電気代は今後、「発電コスト(Generation Cost)」、「ネットワーク料金(Network Charge)」、「小売料金(Retail Charge)」に細分化して表示されます。
月間消費量 1,500kWh以下の世帯:
- エネルギー単価(Energy Charge):27.03 sen/kWh
月間消費量 1,500kWh超過の世帯:
- エネルギー単価(Energy Charge):37.03 sen/kWh
ここで注目されるのは、容量料金(4.55 sen/kWh)およびネットワーク料金(12.85 sen/kWh)は使用量に関わらず一定の従量単価である点です。そのため、1,500kWhを超えるとエネルギー単価部分のみが上昇する構造となっています。
また、燃料費の変動を反映する「燃料費自動調整(AFA)」も導入されますが、2025年7月時点では0.00 sen/kWhに設定されています。

Time of Use(ToU)制度の誘惑 — 週末と深夜がもたらす「節約のチャンス」
新制度では、時間帯別料金「Time of Use(ToU)」制度が拡充されます。スマートメーター設置世帯は、以下の時間帯別単価を選択できます。
- オフピーク時間:平日の22:00~翌14:00、および土日の終日
- オフピーク単価:24.43 sen/kWh(通常料金より約9.6%安価)
- ピーク時間(平日14:00~22:00):28.52 sen/kWh(通常料金より約5.5%高価)
消費量が1,500kWhを超える場合は、それぞれ38.52 sen/kWh、34.43 sen/kWhとなります。
この制度は、電力使用時間を調整できる世帯にとっては、一定のコスト最適化の余地がある設計といえます。
在宅グループへの「ペナルティ」 — 選択肢のないピーク時間消費
一方で、日中の電力使用を大きく変更することが難しい世帯も存在します。在宅勤務世帯、育児中の家庭、高齢者世帯などでは、平日14:00~22:00の電力消費が一定程度発生します。
試算例として、月間900kWhを消費する在宅型世帯がToUを選択し、使用パターンを変更しない場合、
RM439.85 → RM536.96
約RM97の増加
という結果が示されています。
このことから、生活時間を柔軟に変更できるかどうかが、制度の影響を左右する重要な要素であることが分かります。
なお、上記の試算はSSRN掲載の研究レポートによる仮想シミュレーションに基づくものであり、実際の請求額は個別の使用状況やAFA率によって異なります。

「習慣の変更」がもたらす微々たる報酬 — 努力に見合わない節約額
ピーク時間帯の消費を意識的にオフピークへ移行した場合、同世帯の月額料金はRM423.82となります。
通常料金との差額は約RM16です。
この結果から、生活スタイルの調整による節約効果は一定程度あるものの、その効果は消費構造や世帯状況によって限定的となる場合もあることが示唆されます。
なお、本試算も同様にSSRN掲載の研究レポートによる仮想シミュレーションに基づくものです。
1,000kWhの壁とインセンティブ・税制の複雑な力学
低消費世帯向けの「エネルギー効率インセンティブ(EEI)」も導入されます。
- 対象:1~1,000kWh
- 1~200kWh:-25.0 sen/kWh
- 消費量増加に伴い段階的縮小
- 1,000kWhで終了
一方で、
- 300kWh超:KWTBB 1.6%
- 600kWh超:サービス税8%
- 600kWh超:Retail Charge(月RM10)の免除終了
といった要素も組み込まれています。
そのため、1,000kWh付近ではインセンティブ縮小と課税要素が重なり、負担構造が変化する設計となっています。
日系企業・駐在員への示唆 — 人事・コスト管理への影響
本制度は、消費量と時間帯によって負担が変動する設計です。
特に在宅勤務世帯では、
- ToU選択で月約RM97増加の可能性
- 生活時間を調整しても節約効果は限定的
といった試算が示されています。
企業にとっては、
- 住宅手当設計
- 光熱費補助制度
- 在宅勤務制度との整合性
といった観点での再確認が有効と考えられます。
結論
私たちは「賢い消費者」になれるのか?
2025年の新制度は、透明性向上と効率化を目的とする一方で、世帯ごとの生活パターンによって影響が異なる設計となっています。
重要なのは、myTNBアプリ等を活用し、自身の電力消費がどの時間帯に集中しているかを把握することです。
平日ピーク時間帯に電力使用が集中している世帯では、ToUよりも通常料金の方が安定的となる可能性があります。
制度の善悪を単純に判断するのではなく、構造を理解した上で、自身の生活に合った選択を行うことが重要です。
本記事はBridge International Asia Sdn Bhdがマレーシア現地の取材で得た情報をもとに作成しています。 当サイトのコンテンツや記事において、可能な限り正確な情報を掲載するよう努めていますが、記載内容について必ずしも正確性を保証するものではありません。無断転載は禁止いたします。
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