急成長するマレーシアのデータセンター市場
東南アジアの次世代データセンター拠点に選ばれる理由
東南アジアでは、生成AIやECの普及、データ主権規制の強化により、データセンター(DC)への需要が急増しています。中でもマレーシアは、土地・電力・政策の観点から特に有望視されており、世界の大手IT企業からの投資も加速しています。本記事では、マレーシアがDC拠点として注目される理由と今後の展望、日本企業への示唆について、最新の市場データをもとに解説します。
1. デジタル成長を支えるマレーシア:次世代DC市場の新拠点
データ主権やAI活用といった潮流を背景に、東南アジアではデータセンター(DC)需要が急速に拡大しています。その中でマレーシアは、今後の市場シェアの大幅な拡大が見込まれており、域内でもとりわけ注目される存在です。2023年には地域全体のDC供給量の17%を占めるまでに成長しました。2028年にはそのシェアが42%に達すると予測されています。こうした成長を受け、AWSやMicrosoft、Nvidia、ByteDanceなど世界の大手テクノロジー企業による投資も相次いでいます。東南アジアにおけるデータセンター容量シェアの比較(2023年・2028年予測)

Uzabase Asia Pacific Pte. Ltd.『Capacity Unleashed: Southeast Asia’s Data Centre Boom』
出典:CGS International based on DC Byte
主要国におけるデータセンター容量の成長予測(2023年~2030年)

Uzabase Asia Pacifi c Pte. Ltd.『Capacity Unleashed: Southeast Asia’s Data Centre Boom』
出典:CGS International based on DC Byte | Developing Telecoms | Data Center Dynamics | Reuters
マレーシアの2地区に注目
マレーシア国内におけるDC開発は特にジョホール州とサイバージャヤに集中しています。地域 | 特徴 | 主なプロジェクト | インフラ状況 |
---|---|---|---|
ジョホール | シンガポール隣接、 土地・コスト面で優位 |
YTL (Johor DC Park) |
電力・水供給安定、 SGとダークファイバー接続 |
サイバージャヤ | 政策特区として整備、先進DC集積 | Regal Orion (SHINSEI MALAYSIA 1) |
Tier IV、PUE 1.046のグリーンDC |
ジョホールでは2024年上半期だけで、稼働容量が前期比80%増加するなど、開発ラッシュが続いています。
サイバージャヤのRegal Orionは、日本のIT技術者によって設立された企業で、日本の運営ノウハウと東南アジア市場の成長が融合した象徴的な事例です。同社が展開する「SHINSEI MALAYSIA 1」は、Tier IV準拠の高信頼設計と先進的なグリーン技術を取り入れており、サステナブルかつ高性能なモデルケースとなっています。
出典:YTL Johor DC Park | Regal Orion
その他注目ポイント:
● シンガポールにおけるデータセンター新設モラトリアム(2019~2022年)解除後、DC移転先として急伸● インフラ整備、アクセス、再エネ利用の観点からも上記2地区はデータセンター立地として高い優位性を有しています。
2. マレーシア市場がデータセンターに適している理由
マレーシアがデータセンター拠点として注目されている背景には、他国と比較して安価な土 地と電力コスト、政策面での支援、そして豊富な自然資源があります。デジタル産業の成長 を促進する国家政策「MyDigital」により、Eガバメントやスマートインフラの基盤整備が進んでおり、「企業向け再生可能エネルギー供給スキーム(CRESS)」などの制度設計も先行 しています。 また、AI向けの高密度なデータ処理拠点としても評価が高く、同国には半導体パッケージングの強固なインフラが整っています。これに加えて、広い土地と豊富な電力資源を有しており、次世代型インフラの集積地としての条件を満たしつつあります。出典:MyDigital | CRESS
土地・コスト・自然資源の好条件
マレーシアは、電力予備率が40%と東南アジアでも高水準にあり、電力供給の安定性に優れています。また、水ストレス指標では東南アジアで唯一「低」と評価され、水資源の安定的な確保が可能です。これらの要因から、同国は大規模データセンターの設置・運用に適したインフラ条件を備えています。また、マレーシアは通信インフラやコスト面でも大きな優位性を持っています。2027年までに新たに34本の海底ケーブルが敷設される予定で、国際的な接続性がさらに強化される見通しです。さらに、土地価格は1平方メートルあたり約1,023米ドル、建設コストは1ワットあたり約8.53米ドルと、いずれもシンガポールの半分以下の水準に抑えられており、コスト効率の高い立地として注目されています。
東南アジア主要国における電力予備率と水資源リスクの個別比較

Uzabase Asia Pacifi c Pte. Ltd.『Capacity Unleashed: Southeast Asia’s Data Centre Boom』
出典: PWC | Water Resources Institute
法制度による後押しと需要構造の変化
近年、マレーシアでは国内にデータを保存する義務(データローカライゼーション)を強化する「個人情報保護法(PDPA)」の改正により、国内DCの需要が高 まっています。また、EコマースやFintech、Eガバメントの拡大によりデジタルインフラ需要が底堅く成長しています。さらに、AI技術の発展に伴い、1ラックあたり20~50kWといった高密度な処理能力を備えた設備へのニーズが拡大しており、マレーシアはその受け皿としても注目されています。グリーンDC化と再エネ導入の加速
マレーシアは2050年までに再生可能エネルギーの割合を70%に引き上げる方針を掲げており、持続可能なDCの開発を促進するため、電力使用効率(PUE)の基準強化や、冷却システム設計に対する要件の厳格化が計画されています。【マレーシアのグリーンDC化事例:YTL Johor DC Park】
- YTL Johor DC Park:YTL Powerが手がけるマレーシア初の最大規模(275エーカー)のエネルギー統合型DCパーク。
- JDC1 (Johor Data Centre 1):2025年時点で稼働しているパーク内に位置する施設。72MWの再エネ供給体制を備えたグリーンDC。この電力インフラ設備には日立エナジーが技術面で支援。JDC2以降の新施設も段階的に開発予定。
- また、YTL Powerはマレーシア国内で1,500エーカー規模の太陽光ファームをYTL Johor DC Park全体の持続可能な電力供給源として機能するよう開発中。
3. 日本企業にとっての示唆
日本企業にとってマレーシアは、コスト効率・グリーン対応・地域分散という複数の観点から極めて魅力的なDC拠点となり得ます。すでにNTTデータ、富士通、日立 エナジーなどが進出済みであり、最新のAI対応・高可用性施設を展開しています。日本企業の主な動向:
- Y Regal Orion(日系創業):PUE 1.046、Tier IV格付けの最先端DCを運営
- YNTT:マレーシア、ベトナム、シンガポールなどで広域ネットワークを展開
4. まとめ
マレーシアは、単なるシンガポールの代替地ではなく、グリーン化とAI化を同時に進める次世代型DCハブとして存在感を増しています。エネルギー効率、コスト、信頼性の三拍子がそろうこの国は、今後のデジタルインフラ戦略において欠かせない選択肢となるでしょう。より詳しくデータセンター市場について知りたい方や、他の業界に関する東南アジアの最新トレンドにご関心のある方は、ぜひスピーダまでお問合わせください。 7日間の無料トライアルにお申し込みいただくと、本レポートのフルバージョンや、各種話題のニュースやレポートをご覧いただけます。
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※本記事は、Uzabase Asia Pacifi c Pte. Ltd.が発行したレポート『Capacity Unleashed: Southeast Asia’s Data Centre Boom』(2024年12月)に基づき作成したものです。掲載された数値・図表・企業情報はすべて当該レポート内の情報を出典としています。