マレーシア発、世界初のイスラム価値観に基づく大規模言語モデル「NurAI」公開
2025/08/17
中国DeepSeek技術を活用、20億人市場とイスラム経済圏を狙う
クアラルンプール、2025年8月12日 — Zetrix AI Berhad(旧MY E.G. Services Berhad)は12日、世界初のシャリア準拠・イスラム価値観ベースの大規模言語モデル(LLM)「NurAI(ヌルAI)」を正式に発表した。発表会はクアラルンプールのフォーシーズンズホテルで開催され、マレーシア副首相ヤブ・ダト・スリ・アフマド・ザヒド・ハミディ氏が主催した「ASEAN AI Malaysia Summit 2025」にて披露された。NurAIの特徴
NurAIは、イスラム法(シャリア)の原則に基づき、法律・医療・金融などの現代的なテーマから、歴史、イスラム哲学、クルアーン研究といった古典的テーマまで幅広く対応。マレー語、インドネシア語、アラビア語、英語で利用でき、デスクトップおよびモバイルの両方に対応している(https://nur-ai.ai)。大きな特徴の一つが「AIアバターチャンネル」だ。これは、イスラム学者やイスラム金融の専門家を模したアバターを通じて、ユーザーが個別に相談できる仕組みで、一般的なLLMよりも深い洞察と文脈を踏まえた解釈を可能にする。第1弾として、マレーシア中央銀行傘下のINCEIF大学との連携による「イスラム金融チャンネル」が提供される予定だ。
さらに、正式なシャリア監督委員会の指導のもと開発され、マレーシアのイスラム開発庁(JAKIM)、インドネシア・ウラマー評議会(MUI)、国際イスラム・フィクフ・アカデミー(IIFA)、エジプトのアズハル大学などの宗教機関と協力し、厳格なシャリア準拠の枠組みを整備する。
技術的背景と国際的な意義
開発には中国・杭州のAI企業DeepSeekのオープンソース技術が活用され、最新モデル「DeepSeek V3」で採用された「Mixture of Experts」アーキテクチャを導入。複数の“専門AI”に処理を振り分けることで、高速化とコスト削減を実現した。約10名のDeepSeek研究者がメモリ使用量削減を支援したという。今回の開発は「ASEAN-中国AIラボ」の枠組みで実施されており、中国が米国のOpenAIやAnthropicに対抗し、低コストで世界にAIを普及させる戦略の一環とも位置づけられる。
NurAIは、西洋や中国のAIが十分に反映していないイスラム的視点やグローバルサウスの開発課題に対応し、20億人規模のイスラム人口と3兆米ドル規模のイスラム経済に特化した「シャリア準拠の代替モデル」として打ち出される。
副首相のコメント
発表会で副首相ザヒド氏は次のように述べた。「宗教とテクノロジーを調和させ、ウンマ(共同体)と国家の発展のために活かす好例だ。政府、民間、金融機関、宗教機関など、あらゆる関係者に対し、NurAIの開発と普及を全面的に支援するよう呼びかけたい。」
今後の展開
ローンチは段階的に進められる。第1段階ではマレーシアとインドネシアで「フリーミアム版」を提供し、一般的なシャリア指針に加え、遺産相続計算や医療倫理相談といった有料プレミアム機能(月額5~50ドル)を展開。第2段階ではB2B・B2Gモデルとして、イスラム金融機関、フィンテック企業、ハラール認証機関、シャリア法廷などへの統合を進める計画だ。Zetrix AIはすでにマレーシアのシャリア法廷での行政事務自動化を視野に入れ、古文書データの収集などを進めている。さらに、中東やアフリカなどイスラム人口の多い地域での展開も視野に入れており、各国のデータを活用した現地最適化を進める方針だ。
まとめ
NurAIは、宗教的価値観とAI技術を融合させた世界初の試みとして注目される。マレーシアはハラール認証やイスラム金融でのリーダーシップに加え、倫理的AI分野でも先行する形となり、イスラム圏のデジタル経済基盤構築に向けた重要な一歩となりそうだ。