マレーシア市場調査詳細

マレーシアEPF制度改革に関するリサーチレポート

作成日:2025年9月13日
マレーシア政府は2025年10月1日より、外国人労働者に対してもEPF(従業員積立基金)への加入を義務化する重要な制度改革を実施する。この変更により、労使双方が月給の2%ずつを拠出することとなり、企業の人件費と管理負担が増加する一方、外国人労働者の福利厚生向上と退職後の資産形成支援が実現される。

EPFは2024年に6.3%の配当率を記録し、2017年以来の高水準となった。過去10年間の平均配当率は約5.98%と、定期預金やその他の低リスク投資を大幅に上回る優秀な実績を維持している。2025年も5.5-6%の配当が予想されており、安定した高リターンが期待できる。

重要ポイント:
  • 2025年10月分給与から外国人のEPF拠出が義務化(支払いは2025年11月15日まで)
  • 労使双方2%ずつの拠出率(家事労働者は除外)
  • 2024年配当率6.3%、過去10年平均5.98%の優秀な運用実績
  • 国際投資が総資産の38%を占め、収益の44%を創出

1. EPFの概要と制度の仕組み

1.1 EPF(従業員積立基金)とは

EPF(Employees Provident Fund)は、マレーシア政府が管轄する強制加入の退職積立制度である。1951年に設立され、現在では総資産1.26兆リンギット(約37.8兆円)を管理する東南アジア最大級の年金基金となっている。

1.2 現行制度の拠出率

マレーシア国民および永住者に対する現行の拠出率は以下の通りである:

年齢・カテゴリー 雇用主拠出率 従業員拠出率 合計拠出率
60歳未満のマレーシア人 12-13% 11% 23-24%
60歳以上のマレーシア人 6-6.5% 5.5% 11.5-12%
外国人(2025年10月以降) 2% 2% 4%

2. 2025年10月からの外国人加入義務化

2.1 施行日と対象者

2025年10月1日より、マレーシアで働く外国人労働者のEPF加入が義務化される。具体的には、2025年10月分の給与から拠出が開始され、初回の拠出期限は2025年11月15日となる。

対象となるのは、マレーシア入国管理局が発行する有効な就労許可証を保有する全ての外国人労働者である。ただし、家事労働者(メイド、コック、清掃員等)は義務化の対象外とされている。

2.2 拠出率と条件

外国人労働者に適用される拠出率は、労使双方ともに月給の2%である。これは現在のマレーシア人労働者の拠出率(合計23-24%)と比較すると大幅に低い設定となっている。

拠出義務は、従業員の就労許可証の有効期限前2ヶ月間は停止される。これにより、短期間での出国予定者への配慮がなされている。

2.3 登録手続きの流れ

EPFは外国人労働者の登録手続きを簡素化するため、自動登録システムを導入する予定である。雇用主は従来通り既存の雇用主番号を使用でき、新たな雇用主登録は不要となる。

特別な事情がある場合には、最寄りのEPF事務所での手続きも可能である。また、家事労働者については任意加入制度として、EPF事務所での手続きにより加入することができる。

3. EPFの投資パフォーマンス分析

3.1 2024年の配当実績

EPFは2024年において6.3%の配当率を記録し、2017年以来の最高水準を達成した。これは従来型積立(Simpanan Konvensional)およびイスラム法準拠積立(Simpanan Shariah)の両方に適用された。総配当支払額は732億4000万リンギットに達している。

3.2 過去10年間の配当実績

EPFの過去10年間(2014-2024年)の配当実績は以下の通りである:

従来型積立配当率 イスラム法準拠積立配当率
2024 6.30% 6.30%
2023 5.50% 5.00%
2022 5.35% 4.75%
2021 6.10% 5.65%
2020 5.20% 4.90%
2019 5.45% 5.00%

過去10年間の平均配当率は約5.98%であり、マレーシアの定期預金金利(2-3%程度)を大幅に上回る優秀な実績を維持している。

3.3 2025年の配当見通し

2025年上半期の投資収益が389億2000万リンギットと前年同期比3%増を記録したことから、2025年の配当率は5.5-6.0%の範囲で推移すると予測されている。

第2四半期単体では206億1000万リンギットの投資収益を上げ、前年同期比22%の大幅増を記録している。下半期の市場動向次第では、6%を超える配当も期待できる状況である。

3.4 国際投資戦略とポートフォリオ

EPFの投資戦略は国際分散投資に重点を置いており、総資産の38%を国際投資に振り向けている。注目すべきは、国際投資が総投資収益の44%を創出していることである。

2025年第1四半期時点で、国際投資は80億リンギットの収益を上げ、これは同四半期総投資収益の44%に相当する。この実績は、EPFの国際投資戦略の有効性を示している。

投資パフォーマンスの特徴:
  • 最低配当率保証:2.5%
  • 過去10年平均:5.98%(従来型積立)
  • 国際投資比率:38%(収益貢献度44%)
  • リスク管理:多様化された投資ポートフォリオ

4. 外国人労働者への影響と企業への提言

4.1 外国人労働者への影響

外国人労働者にとって、EPF加入義務化は以下の影響をもたらす:

  • 手取り給与の減少:月給の2%が天引きされる
  • 退職資産の形成:高配当率による資産増加の機会
  • 社会保障の向上:マレーシア人と同等の退職保障制度への参加
  • 長期滞在のメリット:長期就労による資産蓄積効果

4.2 企業への影響とコスト分析

雇用主にとっての主な影響は以下の通りである:

  • 人件費の増加:外国人従業員1人当たり月給の2%追加負担
  • 管理業務の増加:EPF登録・拠出手続きの追加
  • キャッシュフローへの影響:毎月15日までの拠出期限
  • 競争力への影響:外国人雇用コストの上昇

4.3 企業への提言

4.3.1 準備事項

  • システム準備:給与計算システムの更新(2%拠出計算機能の追加)
  • 手続き準備:EPF自動登録システムの理解と準備
  • 予算計画:2025年10月以降の人件費増加を予算に反映
  • 従業員説明:外国人従業員への制度説明と理解促進

4.3.2 リスク管理

  • コンプライアンス:拠出期限(翌月15日)の厳守
  • 文書管理:就労許可証の有効期限管理(拠出停止時期の把握)
  • キャッシュフロー:月次拠出資金の確保

4.3.3 戦略的対応

  • 採用戦略:外国人雇用コスト上昇を踏まえた人材戦略の見直し
  • 福利厚生:EPF加入をポジティブな福利厚生として活用
  • 長期雇用:EPF蓄積メリットを活用した人材定着策

5. 結論と今後の見通し

5.1 制度改革の意義

2025年10月からの外国人EPF加入義務化は、マレーシアの労働市場における公平性と社会保障の拡充を目的とした重要な制度改革である。国際労働基準に沿った社会保障制度の整備により、マレーシアの労働環境の質的向上が期待される。

5.2 EPFの運用実績と信頼性

EPFの過去10年間の平均配当率5.98%という実績は、世界的に見ても優秀な年金基金運用成績である。最低配当率2.5%の保証と合わせて、外国人労働者にとって魅力的な資産形成手段となる。

5.3 今後の展望

5.3.1 短期的展望(2025-2026年)

  • 制度導入初期の混乱と安定化
  • 企業の管理システム整備完了
  • 外国人労働者の制度理解と受容促進
  • 2025年配当率5.5-6%の達成見込み

5.3.2 中長期的展望(2027年以降)

  • EPF資産規模のさらなる拡大
  • 国際投資戦略の深化による収益性向上
  • 外国人労働者の定着率向上効果
  • マレーシアの人材競争力強化

5.4 最終提言

企業は2025年10月の制度開始に向けて、早期準備と戦略的対応が必要である。EPF拠出義務化を単なるコスト増として捉えるのではなく、外国人人材の長期定着と企業競争力向上の機会として活用することが重要である。

EPFの優秀な運用実績は、外国人労働者にとって魅力的な資産形成機会を提供する。企業はこの制度を活用し、より質の高い人材の確保と定着を図ることで、中長期的な競争優位の構築が可能となる。

行動計画チェックリスト:
  • 2025年9月末までに給与システムの更新完了
  • 外国人従業員への説明会実施
  • EPF自動登録システムの理解と準備
  • 2025年11月15日初回拠出の確実な実施
  • 継続的なコンプライアンス体制の構築

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