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ブミプトラ政策とは?経緯から2024年の現状まで

 

ブミプトラとは?

ブミプトラとはマレー語で「土地の子」(マレー系住民と先住民)を意味し、マレー人の経済的地位の向上をめざすマレー人優遇政策である。元々、多民族国家のマレーシアであるが、マレーシアが国家として独立した当時、先住民であり国民の約6割を占めるマレー人の多くは農業に従事して、経済活動は中華系の華人が取り仕切る傾向があった。
 

大規模な民族間の暴動「5.13事件」が発生

このような背景のあるなか、1969年、総選挙直後の 5 月 13 日にマレー人と華人が衝突した大規模な民族暴動「5.13事件」が発生した。暴動の原因は、直接的には総選挙の結果、華人系野党勢力が台頭したため、経済のみならず、政治の分野までも華人に支配されるのではないかという危機感と苛立ちがマレー系住民の間で高まったこととされている。
 

「新経済政策」(NEP)の導入

これを契機にブミプトラの経済的地位向上をめざす「新経済政策」(NEP)が1971年から導入されることになる。
NEP は多民族国家の統合を目的に、マレー人を中心とするブミプトラの経済的地位を向上させ、他の民族との経済的格差を是正することが多民族社会の調和を図る近道であるとの認識に立っている。NEPはたしかにブミプトラの地位向上をもたらし、民族間の経済格差是正の大切さは認識されてはいるが、NEPによって市場原理が侵され、癒着や汚職をもたらす要因となっているとして、NEPを批判する世論も根強い。
 

ブミプトラ政策の緩和、自由化

このNEPはブミプトラの経済格差是正だけでなく、外資規制としても機能してきたが、2009 年 4 月にナジブ・ラザク氏が首相に就任したことによりブミプトラ政策は緩和されることとなる。ナジブ新政権は民族の融和と国民統合を重視し「ワン・マレーシア(1Malaysia)」のスローガンを掲げるとともに、サービス産業と金融部門で外資規制を緩和して、投資促進策を導入した。これは実質的にブミプトラ政策の緩和を意味する政策となった。

まず、サービス産業の自由化は、観光や健康関連など以下の 27 業種のサービス業種を対象にこれまで30%のブミプトラ資本参加が義務付けられていたが、これを即時撤廃した。外資 100%出資を認めて規制緩和を実施した。
 
  • コンピュータ関連サービス(データ加工サービスなど 6 部門)
  • 健康・社会サービス(福祉サービス、子どものデーサービスなど 5部門)
  • 観光業(テーマパーク、会議展示センター、ホテル・レストランなど 6 部門)
  • 運輸業(海運代理店業など 3 部門)
  • スポーツ・レクレーション部門
  • ビジネスサービス(国際調達センターなど 4 部門)
  • レンタル・リースサービス
     
次に、金融分野の外資規制緩和策として、投資銀行およびイスラム銀行、保険会社(タカフル=イスラム式保険業者を含む)の外資出資比率の上限をこれまでの 49%から 70%に引き上げた。これは「金融マスタープラン」に沿って金融自由化の一環としてなされた。ただし、商業銀行の外資出資比率は上限 30%までとする従来の規制やサービス業、とりわけコンビニエンスストアなどの卸・小売業分野では規制が残っている。
 

外資規制が残っている業種

2010年に公表された「マレーシア流通取引・サービスへの外国資本参入に関するガイドライン(Guidelines on Foreign Participation in the Distributive Trade Services Malaysia)」で、流通業・小売・卸業について、外資参入の禁止業種が以下のとおり定められている。

 
  • ハイパーマーケット(販売床面積5,0 0 0㎡以上)資本の30%以上をブミプトラまたはマレー系が保有しなければならない。
  • スーパーマーケット、ミニマーケット(販売床面積3,0 0 0㎡未満)
  • 食料品店、一般販売店
  • コンビニエンスストア(24時間営業)外資の保有は30%まで可能で、また、資本の30%以上はブミプトラまたはマレー系が保有しなければならない。外資はフランチャイズ方式で参入しなければならないが、全体の30%までは直営店が認められる。
  • 新聞販売店、雑貨店
  • 薬局(伝統的なハーブや漢方薬を販売する薬局)
  • ガソリンスタンド(コンビニエンスストア併設店を含む)
  • 常設の生鮮市場
  • 常設路面店
  • 国家の戦略的利益に関連する事業
  • 布屋、レストラン(非高級店)、ビストロ、宝石店等
     

2020年~2022年、コロナ禍中のブミプトラ政策

ブミプトラ政策は緩和の方向にはあるが、本来の目的ではある民族間による経済格差やマレー人の経済的地位向上が達成された状況には至っていない。ブミプトラ政策の緩和を進めていたナジブ政権は2018年5月9日に投開票されたマレーシア下院議員選挙で政権をマハティール首相(当時)に譲ることとなり、その後も政治的な駆け引きは続いている。

2020年~2022年にかけて、コロナ禍の影響でマレーシア経済も大きなダメージを受ける中、 ムヒディン首相率いるマレーシア政府は2020年6月に総額350億リンギ(約9000億円)規模の国家経済回復計画(PENJANA)を発表したが、このような計画も多くはマレー資本を念頭に置かれた基準が見られることからも、現在においてもブミプトラ政策による影響は根強く残っているとみられる。
 

アンワル政権下のブミプトラ政策

2022年11月19日に投開票が行われた総選挙で、最大の得票数を獲得した政党連合・希望連盟(PH)のアンワル・イブラヒム元副首相が、第10代首相に任命された。アンワル首相は基本的に民族ベースよりもニーズベースの政策を優先する方針であるが、アンワル政権の下でのブミプトラ政策については方針変更されることはなく、2024年の現在も維持されている。
 

2024年8月、新たなブミプトラ政策を発表

アンワル・イブラヒム首相は、2024年8月19日に「ブミプトラ経済転換計画2035」(プトラ35)を発表した。この計画は、マレー系や先住民族を指すブミプトラの経済的地位を向上させ、他の民族との経済格差を解消することを目的としている。プトラ35では、ブミプトラの高技能職における比率を2022年の61%から2035年までに70%に引き上げ、ブミプトラによる企業株式所有率を2020年の18.4%から30%に拡大することなど、具体的な数値目標が掲げられた。また、ブミプトラ社会の貧困撲滅と他民族との所得格差解消を目指し、東マレーシアなどの発展途上地域の開発促進も強調されている。

さらに、プトラ35は、過去のブミプトラ開発アジェンダに基づきつつ、全ての民族が経済成長の恩恵を受けることを目指す包摂性を強調している。アンワル首相は、誰も取り残されることなく、すべての民族の立場や権利を尊重しながら国の開発を進める重要性を訴えた。計画の実施は、首相が議長を務めるブミプトラ経済評議会が監督し、経済省およびブミプトラ・アジェンダ強化ユニット(UPAB)がその実行を担当する予定となっている。
 

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