マレーシア市場調査詳細

レアアースで注目されるマレーシア

― 供給網多角化時代に浮上する「加工・中継ハブ」という戦略的役割 ―

地政学リスクの高まりを背景に、ハイテク産業に不可欠なレアアース(希土類)の供給網多角化が世界的な課題となっている。

こうした中、東南アジアのマレーシアが、資源ポテンシャルと既存インフラ、そして主要国との協力関係を武器に、国際的な注目を集めている。

マレーシアは、中国に代わる「巨大な資源供給国」を目指しているわけではない。

むしろ同国が志向しているのは、環境配慮と国際基準を満たしたレアアース供給網の中継・加工拠点としての地位確立である。

1. 東海岸経済地域(ECER)に集中するレアアース資源ポテンシャル

マレーシアで特に注目されているのが、東海岸経済地域(ECER)である。

政府系機関の推計によれば、マレーシア国内に存在するとされるレアアース資源ポテンシャルの約7割がこの地域に集中している。

ECERは、パハン州、トレンガヌ州、ケランタン州などを含み、これらの地域では、

  • 電気自動車(EV)
  • 風力発電
  • 先端電子機器

に不可欠な高性能磁石に用いられるディスプロシウム(Dy)やテルビウム(Tb)などの重レアアースを含む可能性が指摘されている。

もっとも、多くの鉱区は現在も探査・評価段階にあり、商業的に採掘可能な鉱量が確定しているわけではない。

マレーシア政府自身も、拙速な開発ではなく、段階的かつ持続可能な資源評価を重視する姿勢を明確にしている。

2. 非放射性(NR-REE)を重視する政策方針とESG配慮

マレーシアのレアアース政策を理解する上で重要なのが、非放射性レアアース(NR-REE)を重視する方針である。

同国では過去、レアアース精製を巡り、放射性廃棄物処理や環境影響が国内政治問題化した経緯がある。

この経験を踏まえ、現在の政策では以下が強調されている。

  • トリウムなど放射性元素の管理を厳格化
  • 環境影響評価(EIA)の厳格運用
  • 採掘・精製に対する許認可の透明性確保

これによりマレーシアは、「環境配慮型レアアース供給国」というポジションを打ち出しており、

ESGを重視する欧米・日本企業にとって、受け入れやすい投資・調達先となっている。

3. 日本・米国との協力枠組みの進展

日本との連携

2025年12月、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)は、マレーシアの東海岸経済地域開発協議会(ECERDC)と、レアアースを含む鉱物資源の探査・評価に関する協力覚書(MoC)を締結した。

この覚書は、

  • 資源量評価
  • 環境配慮型開発
  • 将来的なサプライチェーン構築

を視野に入れた非拘束的な協力枠組みであり、日系企業が将来関与するための制度的土台とも位置づけられる。

米国との協力

マレーシアは米国とも、重要鉱物(Critical Minerals)の供給網多様化に関する覚書を締結している。

これは投資促進や政策対話を目的とした枠組みであり、法的義務を伴うものではないが、

マレーシアが信頼できる供給網パートナー候補として認識されていることを示す象徴的な動きといえる。

4. 中国依存低減を支える「現実的な受け皿」

注目すべき点として、マレーシア政府は公式には「脱・中国」を掲げていない。

中国は依然として最大級の貿易相手国であり、レアアース分野でも全面的な対立姿勢は取っていない。

しかし、

  • 地政学リスクの高まり
  • 日米欧からの供給網分散要請

を背景に、結果としてマレーシアが中国依存を下げるための現実的な受け皿となっている構図が浮かび上がる。

これは「反中国」ではなく、リスク分散を重視する実務的な立ち位置と表現するのが適切だろう。

5. 中流(Midstream)強化国家としての戦略

マレーシアのレアアース戦略の核心は、

「採掘大国」ではなく、分離・精製など中流工程(Midstream)を強化する国家である点にある。

この戦略を象徴する存在が、オーストラリアのLynas Rare Earthsによるパハン州クアンタンの分離・精製プラントである。

同施設は、中国以外では数少ない重レアアースの分離能力を持つ拠点の一つとされ、世界の供給網において重要な役割を担っている。

マレーシアは今後も、

  • 分離・精製
  • 廃棄物管理
  • トレーサビリティ確保

といった付加価値の高い領域に注力する方針だ。

6. 州政府の権限が左右する開発の行方

実務面で見逃せないのが、州政府の権限の大きさである。

マレーシアでは鉱物資源の管理権限が州政府にあり、採掘ライセンスや開発姿勢は州ごとに異なる。

  • パハン州、トレンガヌ州は比較的積極的
  • 州単位で政策判断が分かれるため、進捗スピードに差が出る

外国企業にとっては、「マレーシア全体」ではなく、

どの州で、誰と組むかが成否を分ける構造となっている。

7. 日本企業にとっての現実的な関与領域

日本企業にとって、マレーシアのレアアース分野で現実的なのは、

採掘そのものではなく、以下の領域である。

  • 探査・評価技術
  • 環境管理・廃棄物処理
  • 分離・精製プロセス
  • 品質管理・下流用途(EV、半導体、風力発電)

マレーシアは、日本にとって

「中国+α」のαを担う供給網拠点として、戦略的に位置づけやすい国と言える。

まとめ

マレーシアは、

  • ECERを中心としたレアアース資源ポテンシャル
  • 国際水準の分離・精製インフラ
  • 環境配慮を重視する政策姿勢
  • 日米欧との協力枠組み

を背景に、世界のレアアース供給網において存在感を高めつつある。

同国は大量採掘を競う資源大国ではない。

むしろ、環境・信頼・加工技術を軸にした「供給網の要(ハブ)」として、

供給不安が常態化する時代における現実的な解決策の一部を担い始めている。

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