マレーシアから送る次世代へのエール [帝京マレーシア・大野様]
帝京マレーシア日本語学院の社長である大野好弘さんに
インタビューの機会をいただきました。
エプソンプレシジョンマレーシアの元社長であり、
エンジニアでもあった大野さんは現在「教育」という
新たな業界で活躍されています。 日本の技術力を支え
挑戦し続けた大野さんが次世代の教育について語ることとは。
海外における御社の概要についてお聞かせください
帝京マレーシア日本語学院はマハティール首相の一言から始まりました。現在日本語学院で使用している建物は、もともと日本人学校として使われていました。しかし、その日本人学校が移転する時、マハティール首相が「ここに日本進学のための学校があるといいよね」とおっしゃり、それに手を挙げたのが帝京大学でした。現在までに1100人ほどの卒業生を送りだし、そのうち900人ほどが日本の大学・専門学校へと進学しています。残り200人の生徒の多くは、卒業後日本語を使う仕事についたり、マレーシアの大学へ進学したりしています。
この実績の背景には、先生方の努力を忘れてはいけません。多くの日本語学校が午前のみ、午後のみといったように2部制授業を提供する中で、帝京マレーシア日本語学院では朝の9時から夕方5時までの全日制授業を提供しています。加えて、授業料もマレーシア価格です。全体の9割が日本語をほとんど話せない状態で入学してくるにも関わらず、多くの卒業生が日本への進学を実現し、日本語能力試験のN1・N2に合格できているのは、こういった先生方の努力によるものが大きいです。
また、昨年から卒業生のコミュニティづくりにも励んでいて、日本に留学した生徒の体験談などを広め、より日本の良さを知ってもらえるように情報発信をしています。日本語の話せるマレーシア人材の需要から、企業からの依頼があれば採用情報を卒業生向けに発信できるような仕組みを作っています。
どういった生徒さんが日本進学を目指してしますか
マレーシアの生徒さんが日本語勉強するきっかけの多くはアニメやゲームです。
現在ではインターネット上で世界のどこにいても日本のアニメを見れますし、そういったものがきっかけで日本に興味を持ち勉強を始めます。 加えて、日本語学院に入学してくる多くの学生が日本を訪問した経験があります。マレーシアの生徒にとって日本は良い意味で「変わった国」なのだそうです。彼らはその体験から日本の文化や風習に興味を持ち、日本に住みたいと考え、日本で進学することを目指しています。
受入側としてどういったことを考えるべきでしょうか
日本の教育機関としては留学生を受け入れていきたい気持ちはとてもあると思いますが、その気持ちに仕組みが追い付いていないのが現状です。例えば、下宿をする際に保証人を求められる。しかし、その際に「日本人」の保証人を求められる。これは日本に単身で留学する彼らにとって難しいことです。外国人だというだけで入居拒否をされるだけでなく、知り合いのいない日本で日本人の保証人を探すのは、難しいことは容易に想像できます。そういったことは受入れ機関がある程度サポートしていかなければならないことです。このように日本に留学する生徒は様々な面で「見えない障壁」に直面しています。
日本の高等教育機関への危機感はありますか
1つは世界の大学が優秀な学生を取るのに力を入れている現状を理解することです。従来からマレーシアの優秀な生徒は欧米を中心に留学をし、特に最近は中国の大学へ多く留学しています。弊社で日本語を学んでいる生徒も例外ではなく、上位層にいた優秀な学生が日本ではなく中国に留学することを決めるなんてこともありました。その大きな理由は北京大学や清華大学といった名門校から授業料免除や奨学金を条件に入学のオファーがあることです。マレーシアの学生は海外留学をする際、アルバイトをすることよりも勉強を第一に考えて留学するので、大学側としてもそういった学生は大歓迎ですよね。
反対に、日本の学生が世界へと留学しにくい理由は、日本のスタンダードと世界のスタンダードの違いにあると思います。例えば、マレーシアでは中国や台湾、上海、シンガポール等の中華系の大学に入学したい場合はUEC(Unified Examination certificate)のスコアが使えます。世界で通用するテストを受け、それを利用することができるのがマレーシアの教育です。
しかし、日本の教育機関ですとTOEICや英検といった日本でしか使えない試験がまだ主流。TOEFLなどといった英語圏に留学する際に必要となる試験に力を入れている教育機関が少ないのが現状です。世界のスタンダートに合わせるところは合わせなければならないと思いますし、差別化するべきところはもっと違うところにあるのではないでしょうか。
次世代を担う若者にひとことお願いします
大人になっても勉強し続けてください。これからの時代どんどん新しい技術や考え方ことが入ってくる。それを吸収していくことが不可欠になってくると思います。私自身、元々は化学系のエンジニアでしたが、40代後半は欧米・東南アジアの環境法を勉強し(化学の知識が大変役に立ちました)、新しい技術やプロジェクト計画を作る仕事をしていました。自分の専門分野として「本籍」を持ち、様々な領域の知識を学んでいく。本籍は変わらないが、住所は変わっていく。そんな風に学び挑戦していくことが大切だと思います。
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