Verdastro Sdn Bhd - アブラヤシ由来のプラスチック製品製造
世界で初めてアブラヤシの古木から100%生分解するバイオプラスチック製品の商業化に成功したVerdastro社。国内外から注目を集めるバイオテック企業の創業者ナイム氏にお会いしました。
起業した経緯を教えてください。
マレーシアは世界第二位のパーム油生産・輸出国で、年間約2千万トン以上を生産しています。パーム油の原料であるアブラヤシは25年以上経過すると収穫量が徐々に減少するため、毎年約10%が植え替えられています。膨大な数の古木 (Oil Palm Trunk, OPT) が生まれ、放置されています。一部は家具や合板、木質チップ等に利活用されていますが、それをもっと 革新的な方法で自然環境に還元させることができないか?と考えたのがきっかけです。
環境に優しいグリーン製品に対するニーズを感じていましたが、起業家になりたかったわけではなく、解決策を提供するための手段が起業だったのです。
Verdastro社のビジネスの状況を教えてください。
会社概要
社名はイタリア語のVerde(緑)とAstro(天体)に由来しています。環境に優しいソリューションを創造することを理念としています。3年の研究の末、パンデミック下の2020年に創業しました。OPTを原料として100%生分解するプラスチック製品の商業化に成功した世界初の企業です。(※Verdastro社調べ)
首都郊外のスランゴール州に管理事務所、パハン州クアンタン港のゲベン工業団地に工場と研究施設があります。原材料となる OPTの供給元のプランテーションがパハン州、ジョホール州、ネグリスンビラン州にまたがっているため、工場はそのいずれからもアクセスのよい戦略的な場所にあります。
現在、17名の従業員と24時間体制で、OPT原料の生分解性プラスチックストローを生産、販売しています。主要顧客はマレーシア国内の飲料ブランドです。
今後の計画
① 生産能力の向上
2022年5月現在、月5百万本のストローを生産しています。生産体制を強化しており、9月には倍量の1千万本に増産する予定です。短期的にまずは1千万本ですが、それでも需要は満たせません。東南アジアのストロー市場における主要プレイヤーになるためには月間最低8千5百万本?の生産が必要です。② 製品ラインナップの拡大
現在の製品は飲料用ストローのみですが、既存取引先よりコップ、皿、カトラリー類のリクエストを受けています。順次、品揃えを増やしていくため、国内の複数の大学とも協働しながら研究開発を進めています。③ 化成品原料の研究開発
ゆくゆくはOPTからデンプンや砂糖などの糖分を抽出し、エタノールやその他化学成分も製造したいと考えています。マレーシアにOPT由来の新しい産業を生み出し、確立することを目指しています。OPTプラスチックの特徴は何ですか?
水分に対して非常に強く、水に溶けないため、紙ストローのようにべちゃべちゃになることはありません。一方、土壌に触れると2週間後には融解が始まります。6~9カ月後にはストローとして認識できなくなくまでに分解され、自然界に還っていきます。
デンプンや米など他の生分解性プラスチック成分と比較して、価格競争力もあります。マレーシアではプラスチックストローの価格は1本約3セン(約0.9円)ですが、私たちの製品は現在4~5セン(約1.2~1.5円)です。大量生産をすれば価格はさらに下げられます。(※日本円は1リンギット30円とした場合の相当額)
製造に従来型のプラスチック製造機械がそのまま利用できるのも利点です。既存のプラスチック製品製造メーカーは原材料をOPTプラスチックに変えるだけでよいのです。私たちも産業機械メーカーの製造機械を大掛かりな仕様変更なく利用しています。
一方、独特のにおいは欠点といえるかもしれません。香料を付与することもできますが、これまでのところ、取引先や消費者から受け入れられているようです。
また、OPTは無償で譲り受けていますが、プランテーションの奥地から配送するため、ロジスティクスコストがかさむのも難点です。屋外に放置すると湿気を帯びてしまい乾燥作業が必要となるため、伐採後はタイムリーに引き取る必要があります。
事業を通じて解決したい課題は何ですか?
現在のマレーシアのリサイクル率は非常に低く、90%のプラスチックは海洋に流れ出ていると言わざるを得ません。プラスチックのシングルユース〔注:一度しか使用しないこと〕を止めたいと考えています。
ここKuantanの町でもプラスチックストローやレジ袋の利用をやめるGo Greenという取り組みが始まっています。しかしながら、代わりに何を使えばよいのかという具体的な方法が示されていません。グリーンウォッシング〔注:あたかも環境保護に熱心であるように見せかけて実態が伴っていないこと〕にならないためにも、政府や自治体は消費者に対し、トップダウンで示していく必要があるでしょう。
MIDA(マレーシア投資開発庁)の循環型バイオエコノミー推進室と意見交換を行っています。
日本企業との連携に関心はありますか?
もちろんです。第一にマーケットとしての日本市場に強い関心がありますし、日本企業からの投資は言うまでもありません。しかしながら市場拡大に向けた喫緊の課題は、生産体制の強化と、生産可能数量の増加にあります。現在の生産工程は半自動の状態です。生産設備の追加や、生産工程の自動化・最適化を行い、生産の効率化を進めています。既にMITI(国際貿易産業省)より助成金の承認を得ており、スマートファクトリー化に向けたテクノロジーパートナーを探しています。ものづくり先進国である日本企業からのアドバイスを歓迎します。 また、OPTからエタノールの生産技術を開発している日本企業があると聞いています。そういった企業との協業にも興味があります。
【 2022年5月 取材、文:菅原 】