Rivil Sdn Bhd - 水処理技術の開発
Rivil社は世界の最先端技術企業数社と提携し、水のイノベーションに取り組んでいます。創業者でCEO兼CTOのFaizal氏と、セールスマネジャーのMuizz氏にお話を伺いました。
(注記のない場合は全てFaizal氏の発言)
ビジネスの状況を教えてください。
会社概要
私たちのミッションは「Accelerate Access to Freshwater at affordable cost」で、「私たちが持つすべてのリソースを活用し、新しい技術を導入によって、安価で新鮮な水へのアクセスを加速させること」です。より安く、より早く、人々に安全な水を届けることを使命としています。現在の従業員は6名で、マレーシア政府傘下のCradle Fund Sdn Bhd(テック系スタートアップ向け投資ファンド)からの融資を獲得しています。製品ラインナップ
現在、主に3つの技術を開発・展開しています。
1つ目は「大気からの水の生成」です。水蒸気(湿度)を含んだ空気を冷却し、気体から液体に変化させる結露のプロセスを、大気圧水生成装置(Atmospheric Water Generator, AWG)で作り出しています。空気を露点温度まで冷やして水滴を発生させ、それを集め、何層ものフィルターで繰り返しろ過しています。さらに、ミネラル成分の添加や、紫外線照射による殺菌処理を経て、WHO(世界保健機関)やマレーシア保健省の安全基準に適合した飲料水を製造しています。1日あたり50~5,000リットル(15~2,500人相当分。工場の形態や規模によっては1日あたり最大150万リットル)の生産が可能です。
この技術の優れている点は、空気とエネルギー源さえあれば、設置場所に左右されないことです。石油や天然ガスの海上採掘施設、離島、アブラヤシのプランテーションなど、遠隔地での使用に適しています。大規模プランテーションは灌漑設備が未整備で、水源が雨水しかない場合があります。雨水が利用できない干ばつ期に、給水所としてAWGが導入されています。
スペインのGENAQ社の技術をベースに、高温多湿なマレーシアの熱帯気候に合わせた仕様のチューニングや、顧客の用途に合わせたカスタマイズを行っています。
2つ目は「生活排水のリサイクル」です。オランダのハイドラループ(Hydraloop)社のパートナーとして、東南アジア唯一の販売代理店を担っています。好気性バイオリアクターを使い、家庭内の中水(し尿を含まない生活排水)を再利用して、最大50%の水消費量を節約することができます。水の利用効率が高まるため、下水道事業者の運転負荷も軽減されます。
この技術はグリーン志向の住宅建設やホテルやモスク等の商業用不動産のディベロッパーからの引き合いを多く受けています。
上記2つはいずれもMyHijau認証(マレーシア国内のグリーン製品認証)を取得しています。
3つ目は「水ソフトウェア」です。水の利用量やセンサーデータを解析し、より効率的に水を管理するためのソフトウェアです。例えば、マレーシアの特に地方では無収水という問題があります。パイプの破裂や水漏れなどのインフラの老朽化や、違法採取による盗難により、料金徴収ができない水のことです。この対策として漏水検知システムの開発をシンガポールの技術パートナーと共に進めています。
課題はありますか?
Muizz氏:まず、AWGの技術自体が産業界に知られていないので、認知してもらうところから始める必要があります。
大気から水を生成できることは事実ですが、技術には改善の余地があります。例えば、AWGは動力源として電力を給電していますが、太陽光発電への切り替えも見据えています。ただし、1日200リットルの水生成にかかるエネルギー消費量や費用対効果を考えるとまだ現実的ではありません。
また、意思決定を支援するための価値の訴求にも苦労しています。例えば、石油の海上設備へは食料や飲料水はボートで運搬供給されています。AWGの採用により、限られた海上施設上の保管場所を省スペース化でき、利用済み空きボトルの回収する必要がなくなり、配給のための燃料や人件費等の物流コストを削減できるなど多くのプラス効果はあります。それでも既に確立されたオペレーションを、費用を伴って抜本的に変革するのは簡単なことではありません。私たちの技術を産業界に浸透化させるため、より良いパフォーマンス発揮できるよう、技術の改良を続けています。
起業の経緯を教えてください
起業の経緯
大学3年生から日本に留学し、東海大学動力機械工学科を卒業しました。
マレーシアに戻り、自動車メーカー等複数の企業で勤務した後、自分のビジネスを始めたいと考えていた頃、「世界の科学者の人類への警告 - 第2版("World Scientists' Warning to Humanity – Second Notice")」(2017年発売)を読んだことがきっかけです。
世界中1万5千人以上の科学者が署名した書簡で、人類が記載された課題の解決に対策を講じなければ、2100年までに人口が激減するという警鐘に強烈なショックを受けました。課題のひとつとして淡水不足が取り上げられていましたが、淡水はイノベーションが少ない領域であることがわかりました。
それ以降、来る日も来る日もリサーチを続け、エンジニアリングの知見を活かして技術を照査する中で、GENAQ社の技術が私の心を捉えたのです。すぐにスペインのチームにメールを送ったところ、幸運にも展示会出展のために渡馬予定があることが分かり、CEOに直接会う機会を得ました。技術に関しては十分理解していましたが、好奇心が尽きずあれこれと質問を投げかけた結果、パートナーシップを締結することになりました。このことが契機となり、2018年に創業しました。
起業を通じて得たやりがい
私たちは1日のうち最も多くの時間を労働に割いています。何か真に意味のあることを仕事にしたいと考えていました。 私にとって、事業を通じて水が提供できることはとても意義深いのです。 受注を受け、売上げが上がるたびに、充実感で満たされています。人々に安心で新鮮な水を提できることに幸福を感じています。
事業体を作り上げる上ではさまざまな困難が起き、それを乗り越えていくのは簡単なことではありません。このハードルを日々乗り越えていくには、強い理由と深い信念が必要です。
日本企業との連携に関心はありますか?
日本での2年間の留学は、間違いなく、私に多くの知識と価値観を与えてくれました。日本の水道設備の整備状況や水道水が飲用可能であることはよく理解していますが、AWGは離島や自然災害などの緊急時のバックアップ用途に有用ではないでしょうか。
私たちの事業に価値を見出し、双方がWin-Winになれることであれば、どんな形の関係性も歓迎します。
もし、日本の投資家の方で、私たちの会社に興味をお持ちの方がいらっしゃいましたら、是非、お話させてください。
取材後記: 1冊の本と最先端技術企業との出会いを機に起業家の道を歩むFaizal氏。「真に意義深いことをしたい」という思いを日々実践している。現在のチームは日本や韓国での留学経験を持つメンバーで構成され、韓国の企業とは業務提携の話を進めているそうだ。彼らの「水の分散化」の実現に向けたイノベーションの過程で、日本企業との連携も育まれることを期待したい。 |
(2022年7月 取材、文:菅原)
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