IRGA Sdn Bhd - アグリテック
東南アジア初のアグリテック・ユニコーンを目指すIRGA社。ハードウェアからソフトウェアまで自社開発し、デジタルテクノロジーの力で農業セクターの改革を進めています。共同創業者であり、DirectorのHarish氏にお話を伺いました。
起業した経緯について教えてください
近年のデジタル化の進展により、あらゆる産業が大きく変化しました。一方で、プランテーションの分野は、私たちが育った時代から今日までそれほど変わっていません。
IRGAは、広範なデータ分析、フィールドリサーチ、製品開発の強みを結集し、テクノロジーの力で農業セクターの改革を目指しています。精密農業とソリューションが統合されたデジタルプラットフォームの提供を通じて、農家や農地の所有者の意思決定プロセスを最適化したいと考えています。
IRGAの社名は「農業を総合的に検証・再構築し、テクノロジーの視点から成長を見据える」という理念から、「AGRI」を逆さに表記して生まれました。
ビジネスの状況を教えてください
会社概要
創業は2020年です。その後ソフトウェア開発会社を、2021年には農機メーカーのKingoya Enterprise Sdn Bhdを吸収合併しています。ソフトウェアとデジタル・ハードウェアの研究開発を行う研究開発チームや、農機具の設計・製造スタッフなど、多種多様なスキルセットを持った、約90名の従業員がいます。
プランテーション産業のデジタル化を「農園・農場~工場~流通・販売」のサプライチェーンで見た場合、工場での製造、マーケットプレイスなどの下流領域には様々なソリューションとプレイヤーが存在しています。他方で、農園の樹木の状態や、農場運営などの川上の領域にはあまり手が付けられていません。
大企業はERP(Enterprise Resources Planning, 経営資産計画)に投資していますが、現場のオペレーションに合わせた拡張には多大な費用と時間を要します。私たちは農場から工場までのプロセスをデジタル化し、既存のERPにデータ連携することを進めています。
ソリューションラインナップ
収穫から圧搾まで農場の活動から収集されるデータを活用し、農園運営をエンドツーエンドで管理できる総合管理システムで、iPLANT FiELD(農場管理システム)、iPLANT MiLL(工場運営システム)、iPLANT WEiG(計量台の荷重測定システム)などから構成されます。 マレーシア国内からの引き合いが最も多いですが、既にフィリピンでの導入実績があり、今後はタイやインドネシアへの導入予定もあります。
HARVi:バッテリー式アブラヤシ収穫電動カッター
通常、収穫作業は3~4人の作業員で行っていますが、電動カッターの採用によって必要な労働力を低減することができます。動力を従来のガソリンから電気に変えることで、CO2排出量が削減されるため環境に良いだけではなく、振動が軽減することで、作業の安全性も向上します。現在、プロトタイプ製品にGPSや接続機能などを追加し、2023年の発売を目指して開発中です。
KINGOYA 農具:
これまでに100種類以上の農業関連製品を設計・開発しています。マレーシア国外の売上が9割で、その上位を占めるのは南米の国々です。Kingoyaのブランドは耐久性と品質の高さで知られており、リピート注文が多いのが特徴です。Kingoyaのロゴを付けたコピー商品も出回っているほどです。
課題はありますか?
紙にペンでデータを記録・集計する方法での農場から本部への報告業務には、約30日かかっていました。そのプロセスをスマートフォンのアプリを使ってデジタル化することで、いまでは数秒以内で完了できます。
ただし、広大なプランテーションではインターネットが不通のエリアも多いため、完全なクラウド型にすることはできません。
私たちはハイブリッドモデルを採用しています。モバイルアプリやデータ分析、ダッシュボードはクラウド上にありますが、メインのコアシステムはオフィスのオンプレミスです。
今後の計画を教えて下さい
サブスクリプション型のサービス提供を拡充しています。農機についてはEquipment-as-a-Service(EaaS)として、リース会社と提携し、リースモデルで提供しています。農場主は機材購入費用を抑えることができ、故障やメンテナンスのトラブルからも解放されます。
また、Harvesting-as-a-service(HaaS)という収穫作業に対して熟練した労働力を提供するサービスも準備中です。IRGAの機材とその技術トレーニング受けた人材を派遣するもので、発注から人材派遣までの全体プロセスをデジタル化し、iPLANTと統合予定です。2年以内のリリースを目指し、急ピッチで進めています。
人材不足に関しては、外国人労働者だけではなく、プランテーション家業を継承する第二世代、第三世代の若年層の減少も課題です。テクノロジーを活用し、コンピュータシステムやモバイルアプリを操作するためには、より高度なスキルが必要になります。私たちの提供する製品やサービスが、若い世代の興味関心を引き付ける要素となり、彼らに利用してもらえることを期待しています。
中長期的には、プランテーション産業が盛んな赤道直下の国々、南米、南西太平洋地域、アフリカなど、世界各地へグローバル展開に積極的に取り組みたいと考えています。ソフトウェアの導入にはコンサルティングやカスタマイズが必要となり、プラグ・アンド・プレイでは利用できないため、容易ではありません。しかし市場は非常に大きく、需要があります。各地域にオフィスを構え、存在感を示していく必要があると考えています。
日本企業との連携に関心はありますか?
私たちは常にパートナーと協働することに前向きです。日本で興味深いソリューションを持っているパートナーがいれば、私たちはいつでも彼らとコラボレーションし、私たちのソリューションと統合して、積極的にお客様に付加価値を提供したいと考えています。
例えば、私たちはドローンの研究開発にそこまで注力はしていません。なぜならドローンを使った肥料や農薬の散布、マップ作成など、既に多くのプレイヤーがひしめいているためです。しかしながら、樹幹下のモニタリングやマッピング、樹木や果実の生育状態を監視するマシン・ビジョンなどのアプリケーションには関心があります。接続性の面で課題は多分にありますが、5GやIoT技術などを組み合わせて開発できると考えており、そのようなサービスを提供してくれるパートナーを探しています。
取材後記: 研究開発とデータ活用に注力し、アグリテック製品・サービスの開発に取り組むIRGA社。Harish氏は、プランテーション農園業、およびインダストリー4.0のデジタル技術の両分野に精通し、農業関連団体や通信IT企業とも密に連携しながら、データ主導のエコシステム構築を推進している。農園の生産性向上と雇用創出が、食料の持続可能性、ひいてはESGの強化につながることに疑いはないだろう。 |
(2022年8月 取材、文:菅原)